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Y's cafe 五代目社長の眼

「プロフェッショナルの挟持とは」

かつて卓球の福原愛選手に“相手の球筋をどう読むか”について伺ってみて、そのシンプルな答えの強さに感銘を受けたことを覚えている。
いわく相手の球筋を決めているのは自分だと。つまり、相手がフォアやバックでどのような角度でラケットを返し、速度、コースで打ってくるかを見て動くのでは遅く、自分が球を打ち出したその時から始まっているというのだ。
スピード、角度、回転、間合いなど自分の球筋によって相手の球筋は変わる。
つまり、究極的には相手の次の動きを決めているのは、今の自分だということなのである。物の道理を組み立てる中で、他力本願にならずその実を自らの中に求めるという考え方は剣の道の奥義を極めた者が達する境地に似て、凄みすら感じられる。
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ずっと気になっていた一つの作品に会いにいった。
小田原で開かれた会合の帰り、昨年10月にオープンしたばかりの岡田美術館に足をのばした。喜多川歌麿作「深川の雪」。歌麿の“雪月花”幻の三部作と言われる傑作のひとつで、「品川の月」「吉原の花」と並び称されその存在に注目が集まっていた。歌麿の巨大な掛幅画のひとつで2m×3.4mの横長のパノラマに広がるのは江戸期に栄えた深川のある大きな料亭の廊下や二階座敷に芸者や食事の用意をする女、赤ん坊、猫などの一瞬の喧噪が生き生きと絵が描かれている。歌麿、最晩年の作と言われている。ディテールをじっくりと味わう。前夜から降り積もったのであろう庭の松の雪化粧、芸者たちの着物の柄に見られる社会風俗、膳に載せられた食事の献立、器、火鉢、掛け軸、表具。さらに絵に登場する27人の人物造形それぞれに繊細な表情が託され、細部に神は宿り、神は美をもたらすといった感である。以前、画集で歌麿の「品川の月」を見たとき、やはり品川宿にかつてあった老舗旅籠の二階座敷から奥に広がる品川の海に、白波漂う帆かけ舟がいくつも見え、これまた19人の遊里の女性たちを活写している実に堂々としたしつらえであった。構図は我々、映像の世界で言うところのルーズショット、「ヒキ」である。「ヒキ」の中に濃縮されたディテールの絢爛さにプロの視点と構想力、構築力を見せつけられる。
この、江戸の町を舞台にした三部作を歌麿が描いた地は江戸ではなかった。江戸から遠くはなれた「栃木」である。当時、水運が栄えていた栃木は江戸に物資を運ぶ、いわば海運の要衝であった。史実もきわめて興味深い。誰が歌麿に描かせたのだろうか。人栄えるところに町が生まれ、町栄えるところに文化が生まれる。
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紀伊国屋ホールにつかこうへいの熱っぽさが戻ってきた。
劇団扉座の公演「つか版・忠臣蔵—大願成就討ち入り篇」原作/つかこうへい・脚本・演出/横内謙介。
客演の山本亨、ベテランの岡森諦ら躍動する俳優たちから立ち上る熱気と不思議に妖しげな空気が紀伊国屋を包み、それだけでワクワクする。生身の役者によって互いに交わされる速射砲の如き台詞のシャワーを浴びながら、かつて、つかさんの舞台に自分が見た、壊し、壊されていくものによって生じる【発熱】、鋭利な刃物の刃先に指先をすべらせているようなヒリヒリした感じ、そしてピンスポットに映し出された舞台上の光と影に潜む得体の知れない【闇】と匂い立つような【場末感】。字面だけで道に迷ってしまいそうな【官能】という深みにはまるデカダンス。たくさんのことが一気に彷彿とされた時間だった。見城徹さんの芝居心をたぎらせるパンフレットの気合いと愛情のこもった檄文を読みながらいい仕事師はみな熱狂の中にいると深く思う。夜の新宿は眩しかった。
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テレビマンユニオン全スタッフに求めているのが、新たな「テレビマンユニオン・プロフェッショナリズム」の研鑽である。
【プロフェッショナル】とは、モノ創りに誠実に向き合い、自らの仕事にしっかりとした責任を持ち、自らを磨き続けること。一人一人が個性ある専門性を持ち、知識と実践を身に着けたプロフェッショナルとしての創造の力と誠実に向き合う地道な研鑽に日々を傾け、内なる達成に安住することなく、自らの壁を壊していくことこそ、〈個〉と〈組織〉をより活性化していく者たちに創造と経営の両立した「自由の砦」を築くことの道なのである。
得意分野を堅持しながら、さらなる専門分野の拡大をめざすとともに変革のスピードに俊敏に対応するプロフェッショナル集団、コンテンツメーカーとしての信頼を勝ち取る。そのための施策として積極的に社内の人材育成の強化に取り組み、クリエイティブにも危機管理にも対応できるプロフェショナルクリエイター集団を創造する。それが「テレビマンユニオン50」創立50周年へむけた“人づくり”まさに組織は人なりを大切な財産と考える。
そこに海図なき航海と称される制作創造集団の未来像が必ずあると信じている。
『創造の職人』であることの矜持と感謝をこめて。
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ちなみに、福原選手に卓球のボールの回転はどう見えているのか、聞いてみたことがある。驚くことに球に記された小さなメーカーのマークの動きを見ているらしい。小さなマークが空中でどう回転しているのかを見てドライブがかかり猛烈なスピードで一定方向に高回転しているものや、カットマンの微妙に変化する回転軸の揺れなどはすべて目視できているというのだ。調子がいいときは、マークがよく見えますよ、と笑顔で応えた時、プロの凄みがそこにあった。
(加藤義人)

(2014年5月)