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Y's cafe 五代目社長の眼

「コトバの達人を探して」

番組の企画を進めていくことのエネルギーは、僕の場合、MDを持って話を聞きに行きたい人の存在を発見するということで俄然、アクセルが入る。本からの得られる知識はそのテーマの骨格をつかむ上で重要なことにかわりはないが、人に会い、話を伺うことで得られるものの大きさ、深さ、そして豊かさは遥かにあり、知識とは経験であることを思い知らされる。まるで稜線の彼方に霞の向こうから真っすぐに伸びる朝陽にも遭遇する喜びにも似ている。
だからMDの再生機が製造中止になったことがなにより切ない。ロングバージョンのインタビュー時間にも対応できる上、再生速度を自由に変えられるので、自分でスクリプトを採録する時に、早き聞きやスロー再生する時にも便利だ。なによりメディアがコンパクトなので移動中もかさばらない。音楽やライブな音空間をおさえておきたい時にも機動力を発揮する。MDを回しながら取材のたくさんの人に会い、話を聞くことの財産はコトバとの出会いである。ほぼ100%の確率で自分が探している〈道〉をいくつも教えられる。予断と偏見をきれいさっぱり、まさに袈裟懸けのごとき鮮やかな刀さばきで断つことができる。
取材の興味を広げてくれる達人達はみな、総じてコトバのプロである。彼ら彼女達が語る経験の数々は、生々しい実況のドラマがあり、そこから得られたケーススタディを括る時には手だれの解説者に等しく、切れ味のいいフレーズと本質の中心に届く響きに満ちている。

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昨日の電車の中で聞こえてきた会話。
二人の中年女性がオリンピックの話題で盛り上がっている。1人(A)は連日の真夜中の放送を熱心に見ているらしく、寝不足気味。トリプルアクセルとかダブルトウループなどの専門用語も口にしてスポーツにも詳しい様子。かたや友人らしい1人(B)は、スポーツはあまり興味がないようで…。
女A「(興奮気味に)ねえ、昨日の真央ちゃんのアレ見た?」
女B「ううん。疲れて早く寝ちゃったから…」
女A「真央ちゃんのショートは残念だったのよ」
女B「あら、似合ってなかったの?」
女A「え?(通じてない感じ)」
女B「コマーシャルとか出てる時はロングで可愛いもんね!」
女A「(相手の勘違いに何と応えていいかわからず)え、うん、まあね」
と、それまでスマホとにらめっこしていた娘(きっとA、Bどちらかの)が顔を上げて、
娘「ねえ、お母さんたち、それマジ、ヤバくない!」

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テレビの原点に“中継”があるという事実に沿っていけば、一連のスポーツイベントを伝える放送の重要なファクターに実況中継のコトバがある。私たちは競技の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っているが、それを伝える実況中継のコトバに実はとても強い影響を受けている。中継アナウンサーの微に入り細に入りの状況描写や時として絶叫調のフレーズも心に届くが、“解説者”のコメントにそのスポーツの意外なルールの面白さや選手の素顔を知ることが出来ると興味をそそられる。
今回のソチオリンピックの中継でも“解説者”のコトバが新鮮だった。スキー・ノルディック複合で渡部がメダルを獲って大号泣した荻原健司。感情を抑えて、演技者のジャンプに冷静に「ダブルトウループ・トリプルトウループ」と重ねていくフィギュアスケートの八木沼純子。カナダの日系選手のおばあちゃんが「帝塚山出身」とかある選手が「コーヒーを飲んだことがない」などプチ情報満載でアナウンサーが戸惑いながら妙に明るい空気感のあるスキーの三浦豪太。海外の選手でも頑張っている人は垣根なくほめちぎるジャンプの原田雅彦は秀逸だった。

思い起こせば、日本のテレビ史は名解説者の歴史といえるかもしれない。
「拳闘が面白い」という父がボクシングファンだった影響でタイトルマッチはいつも見ていた。ボクシングは白井義男、“郡司さんの採点は”の郡司信夫、矢尾板貞雄。「ガード」「ボディブロー」「バッティング」「クリンチ」「カウンター」・・・。知らず知らずにスポーツの中に入っていく。玉の海さん。神風正一さん。そして向こう正面はと、相撲は解説者抜きには語れないスポーツだ。小西得郎、青田昇、田宮謙次郎、関根潤三、土橋さん、掛布さん、川藤さん、プロ野球は多彩だ。メジャーリーグ解説のさきがけは、パンチョ伊東さんや山中さんだった。WBCなど、時に思いきり盛り上がってしまう古田敦也。ゴルフは岩田禎夫、戸張捷、杉本英世、世界の青木も味がある。高校野球の池西増夫。沢村忠に熱狂したキックボクシングは寺内大吉、松岡憲治。三菱ダイヤモンドサッカーなら岡野俊一郎。プロレスは竹内宏介、山本小鉄。ローラーゲームはドクター宮本、確か、実況は土居まさるだった。ボウリングブームの頃は、黒縁メガネかけた江上さん、石川雅章、技術解説がうまかったのは、矢島純一、女子プロだとやはり須田開代子さんはうまい、個人的には野村美枝子さんのファンだったけど。
変わったところで、11PMのフィッシングは服部名人と横田ディレクター、巨泉さんも一流の解説者と言えるかもしれない。F1の森脇基恭、今宮純、ピットレポートの川井チャンの声を聞くとレース場特有のオイルやタイヤの焼けた匂いが浮かんでくる。
個人的には毎年のウィンブルドンの女子を担当している吉田友佳さんの解説が好きだ。言葉数こそ多くないが、テニスのプレーの流れを壊さないタイミングが絶妙である。
前回のバンクーバー五輪の時にわかりやすいルール説明と得点が決まると「イエス!」と声張り上げていた小林宏さんはカーリング人気の火付け役だった。水泳の高橋繁浩は思いが言葉に直球。マラソンブームを支えている増田明美さんの解説は言葉の切れ味と抑揚とテンポが抜群だ。
【テレビ解説者列伝】
どうですか?この企画。

(加藤義人)

(2014年3月)