ダイワハウスpresents 尾上菊之助2017 歌舞伎まっしぐら

ダイワハウスpresents 尾上菊之助2017 歌舞伎まっしぐら

 尾上菊之助さんが、インドの叙事詩「マハーバーラタ」をもとにした新作歌舞伎の準備をしているとはじめてお聞きしたのは、何時だったろうか? かつて演劇青年だった僕は、ピーター・ブルック演出の上演時間9時間に及ぶ「マハーバーラタ」をセゾン劇場で観て衝撃を受けたことを思い出した。あれは、既にテレビの仕事をはじめていた1988年のことだ。学生時代、ブルックが書いた演劇論「なにもない空間」を何度も読んでいた。

 「そこになにもない空間があるとしよう。そして演者が舞台を通り過ぎ、それを見ている観客がいる。・・・これを私は『演劇』と呼ぼう」

 そのブルックが、1985年、仏アヴィニョン演劇際で初演した「マハーバーラタ」は、世界的な反響を呼び、既に演劇史の伝説になっていた。劇空間で味わうあの五感を研ぎ澄まされる感覚や、熱量、そして何よりその感動は、映像では絶対に伝わらない何かだ。テレビの世界に身を置くようになっていた僕は、演劇とどう向き合ったらよいのだろうか? 折しもWOWOWが開局をひかえ企画募集があり、同世代の演劇人にテレビ作りに積極的に関わっていただき、テレビの人間と一緒に作る演劇番組「演劇ランド(PLAYS LAND)」を企画、採択され、開局から1年半、マンスリー番組として放送した。
 それは、第三舞台、自転車キンクリート、遊◎機械/全自動シアター、赤い鳥、花組芝居、第三エロチカ、東京壱組、ワハハ本舗、南河内万歳一座&劇団☆新感線など関西の小劇場総出演・・・等々、皆さんと相談して演劇人にテレビの演出をしてもらったり、中継と別撮りしたステージ上のカメラ映像をミックスしたり、ドラマもドキュメンタリーも何でもありの実験的な「演劇」の番組だった。
その後、僕は、もっぱら演劇は観るだけに留めた。それが、あるご縁で菊之助さんの番組を手掛けさせていただくことになったのだが、その経緯はこちらを・・・。

 そして静岡県舞台芸術センター(SPAC)の宮城聰演出「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」が、ブルックと同じ仏アヴィニョン演劇祭で上演され絶賛されたというニュースを聞いたのは2014年のことだ。聞くところによると、菊之助さんは、その凱旋公演を横浜で観て、宮城さんに歌舞伎化を打診、演出を依頼したという。僕は、残念ながら舞台を観ていない。後から映像で拝見しただけだが、空間構成の見事さ、打楽器による圧倒的な音楽の力、日本的でありながら普遍性を持った衣裳・・・その全てに打ちのめされた。

 10月1日に初日を迎える歌舞伎座の芸術祭十月大歌舞伎昼の部「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」は、新たに青木豪さんが台本を書き、主人公カルナを菊之助さんが演じ、宮城さんのスタッフと歌舞伎の裏方がタッグを組んで制作にあたる。
 8月、菊之助さんがニューデリーの日本大使館で、日印友好交流年のイベントに出演することになり、同行取材をさせていただくことになった。さらに菊之助さんは、「マハーバーラタ戦記」上演準備のため、オールドデリーでヒンズー教の寺院を見学、ガンジス川上流のハリドワールではガンジス河岸に立錐の余地もないほど埋め尽くされた信者の中でアールティという夕べの祈りに立合い、かつてビートルズも訪れたヨガの聖地として世界的に知られるリシケシでは、菊之助さんがガンジス川の畔に立つポスター撮影を映像に収めた。
 帰国後、制作記者会見での宮城さんの発言。「歌舞伎の蓄積と、今日の世界をこう見るべき、このように見ると希望が見えてくる、あるいは今日の世界に対してこのようなメッセージを劇場から発しているんだ。こういう最先端の演劇。この両方が十月の歌舞伎座に実現するのを期待していただければと思っています」。
 今、僕は、制作準備や稽古を撮影しながら、何かとてつもないものが生まれることを予感しワクワクしながら日々を過ごしている。そして。この思いを減滅させることなく、客観性も決して失うことなく、テレビとして視聴者に伝え、皆さんが劇場に足を運んで頂く一助になれればと思って編集作業も進めている。
 そして、今回の僕のひそかな楽しみ。それはナレーションを、あの藤原啓治さんにお願いしたことだ。藤原さんのあの語り口を30年以上前から大好きだったのだが、今回初めてお仕事をさせていただくこととなった。光栄です。

(三室雄太郎)

【歌舞伎座芸術祭十月大歌舞伎「極付印度伝 マハーバ―ラタ戦記」特設サイト】

ナレーション

藤原啓治

構成・演出 

三室雄太郎

演出補 

三保谷文彦

撮影

鈴木淳 
篠崎順一 
丸山純

音効

塩屋吉絵

プロデューサー

大木由起子(BS朝日)
三室雄太郎