ザ・プレミアム 「玉音放送を作った男たち」

ザ・プレミアム 「玉音放送を作った男たち」

 日本の敗戦を昭和天皇自らが語りかけた「玉音放送」には、それを実現へと導いた仕掛け人がいた。
時の情報局総裁・下村宏。彼は昭和18年にいち早く玉音放送のプランを着想し、昭和20年8月に天皇に単独拝謁して実施を訴えた。そして実現にこぎつけるや、それを阻止しようとする反乱軍と対峙し、15日の放送を死守したのである。下村の手記などの資料を軸に、あの歴史的な放送を実現した人々の姿を、ドキュメンタリー・ドラマで描き出す。


天皇陛下自らが国民に終戦を告げた「玉音放送」には、それを実現へと導いた仕掛け人がいました。時の内閣情報局総裁・下村宏。彼は昭和18年にいち早く玉音放送のプランを着想し、昭和20年8月8日には天皇陛下に単独拝謁して、その実施を訴えた。そして実現にこぎつけるや、放送を阻止せんとする反乱軍と対峙し、実行総責任者として当日の放送を守り抜いたのです。

下村宏は元々、自由な報道と正しい情報の公開が、国家安定の基礎になると考えていた人でした。玉音放送についても、当時タブーとされていた天皇報道の壁を破ることで、国民の一体感を高められると考え、戦時中から実現への働きかけを続けていたのです。
連合国がポツダム宣言を通告してきたにも関わらず、軍部がいまだ本土決戦を主張して、国論がまとまらずにいた時、彼は「玉音放送」を天皇による終戦の宣言として実現させることを思いつき、周到な計画の下、それを実行しました。もしも終戦が、別の形で告げられていたら、国民は混乱し、穏やかな終戦は実現しなかったかも知れません。
この『玉音放送を作った男たち』は、「放送」によって終戦と戦後への道を切り開いた、下村宏とその協力者たちの戦いを描いた、ドキュメンタリー・ドラマです。
脚本執筆、演出に際し心がけたことは、下村宏という人間の複雑性を表現することでした。下村は、単純な理想主義者でも反戦主義者でもなかった。己の目的を実現するためには、軍部への配慮も怠らず、安心させておいて、スルリと主張を通してしまうという、一種の戦略家でもあったのです。あの時代に、己の理想を実現させるためには、そのための駆け引きも必要だったわけで、いわば「理想力」と「現実力」を合わせ持つ人物として、下村を描く必要があったのです。
柄本明さんに下村役をお願いしたのも、そうした狙いがあってのことでした。柄本さんには、時に非情に徹し、狸の皮をかぶりながらも、別の場面では率直な人間的感動をあらわすという、多面的な下村像を、微細かつ大胆な演技で表現していただき、誠に有難く思っております。
作品には、下村の部下、協力者として、情報局の久富達夫次長(演・豊原功補)、川本信正秘書官(演・青木崇高)、和田信賢アナウンサー(演・瀬戸康史)らが登場します。下村は玉音放送の計画を、久富・川本との分け隔てのないディスカッションで煮詰めていきました。軍部全盛の時代に、民主的なグループワークで対抗するという図式自体がとても意義深く思えましたし、そこに力点を込めて描いております。
また和田アナウンサーについては、彼が空襲警報を担当していた時、軍部の検閲のため放送が遅れてしまい、多くの犠牲者を出してしまったエピソードを、大きく取り上げています。そのような経験を持つ和田が、終戦を告げる玉音放送の担当になった時、そこにどのような思いを込めたのかを、描きたかったからです。
玉音放送阻止を企てる反乱軍の畑中健二少佐は、過去の映画作品(「日本のいちばん長い日」)では、軍人気質の熱血漢として描かれていましたが、元々勉学に秀でた青年だったという経歴を知り、今回は「皇国史観を学んだ優等生」というイメージで、描くことにしました。優等生であるがゆえ、一つ歯車が外れると暴走し、狂気を孕んでしまう脆さ、危うさがある。そんな人物像を、高橋一生さんに、静から動へと激しく転換する演技で、表現していただきました。
さらに作品では、下村宏を支える妻・文役と、全体のナレーション役として、原田美枝子さんにご出演いただいております。原田さんの演技は、特別な包容力にあふれたもので、男たちと時代を見守る役柄に、誠にふさわしいものでした。
豊原さん青木さん、瀬戸さん、そして鈴木貫太郎首相役でご出演いただいた上田耕一さんを含め、今回は本当に、俳優さんの素晴らしい演技と、モチベーションに支えられて、撮影をすることができました。

民主主義は戦後、GHQによって招かれたものですが、実は、天皇陛下が直に国民に語りかけるという、玉音放送の取り組みの中に、民主主義の第一歩は、しるされていたような気もするのです。
玉音放送は、あの戦争を終わらせると同時に、戦後の未来を切り開く放送でもあった。そんなことを感じていただける番組になっていたら、幸いです。
佐藤善木

出演

柄本明


青木崇高

瀬戸康史

高橋一生

上田耕一

川口覚  森本のぶ
三浦透子 坂東工
塚本幸男 植田靖比呂

豊原功補 

原田美枝子

スタッフ

監督・脚本   佐藤善木 

プロデューサー 富田朋子       撮影     今泉尚亮
ラインP    千葉昭人       VE     高井佑二
キャスティング おおずさわこ     録音     深田晃
                   照明     白石成一
制作担当    関友彦      
制作主任    谷村龍        美術     岩本一成
                   持ち道具   細谷恵子
助監督     星秀樹        衣裳     村島恵子   
2nd     佐野智樹       メイク    新井みどり
3rd     眞下奈生
4th     浜田玲        軍事指導   越康宏
インターン   枝優花        選曲     大森力也
                   ポスプロ   IMAGICA