藤田嗣治の美術番組である。企画の提示を受けたとき、そういう番組はすでにあったと一瞬思ったが、余り知られていない1930年代の藤田の作品を中心にならと、演出を引き受けた。発想は秋田朝日放送でBS朝日もその発想を受け止めた。
藤田は1920年代を黄金時代とした画家である。乳白色の裸婦像は貧しい画家を一挙にモンパルナスのスターにした。それは藤田を描く格好の成功物語になる。しかし、この番組はそれを捨てる。そして、藤田の1929年から始まる知られざる壁画時代に焦点を合わせる。パリのフォーブルサントノーレ通りにある連合国倶楽部での撮影から動きだす。その倶楽部は特別会員制で、関係者だけが入館を許されていた。そのために藤田の装飾壁画「花鳥図」は世に広く知られることがなかった。昨年のクリスマス休館日に、秘かに世界で初めての撮影を試みた。その壁画は5メートルほどの天井に近いところに架けられている。しかし、その完璧な日本様式の絵の中に、通常日本画には決して現れない一匹の動物が、すべてを裏切るように描かれていた。それこそがまさに藤田嗣治の異色の個性だった。番組はそんな藤田の美的宇宙を、消えていく平野政吉美術館の中に求めていく。
（重延　浩）



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