ダイワハウス presents 尾上菊之助2014 歌舞伎まっしぐら

ダイワハウス presents 尾上菊之助2014 歌舞伎まっしぐら

尾上菊之助丈の撮影を始めてから、足かけ5年になります。まさかこんなに長いお付き合いになるとは思ってもみませんでしたが、きっかけは、既に番組が決まっていて、菊之助丈側からのディレクターは歌舞伎を少しは知った方にとのご所望で、たまたま私が大学で演劇学専攻だったことをご存知の方からの推薦でした。というものの、私が勉強していたのは映画や国内外の現代演劇で、歌舞伎は一般教養で授業を受けていたものの、年に数回足を運ぶ程度。いわんやテレビジョンの仕事をはじめてからは、全くの無縁。私のような素人には恐れ多い題材でした。
とはいうものの、推薦して下さった方との関係で、私からはお断りできず、菊之助丈とお話をさせていただき私で良いと仰ったら…とお答えしました。果たして当日、菊之助丈が主役の忍びの惣太をつとめる河竹黙阿弥作「都鳥廓白浪(みやこどり ながれの しらなみ)」(新橋演舞場 2010年11月)を拝見した後、ご当人とお会いすることになりました。久しぶりに拝見する歌舞伎、私は菊之助丈にすっかり魅了されると共に、菊之助丈の忍びの惣太に、新鮮な感動を覚えました。後にインタビューで菊之助丈はこの芝居についてこう仰っています。「江戸時代って想像するに、役者が舞台でどう変化するかをものすごく楽しんだんじゃないですかねぇ。あり得ないですよね。若殿様が盗賊に身を落として、その盗賊が化けて女郎になっているなんて。こういう三重構造を考えられないですよね!でもそれを本当に鮮やかに演じ分けたんですよね」。
しかも、この芝居の大詰め、通称「おまんまの立ち廻り」は、暗闇の中での捕り物を、明るい中で見せてしまおうという趣向で、悠然と食事をとる菊之助丈が捕手達を軽くあしらい、納豆の長く伸びたネバネバで絡め取ったり、押さえつけた拍子に沢庵を食べさせたりの大混乱。私は、その設定が、学生時代に勉強したイギリス現代演劇の劇作家ピーター・シェーファーが、映画にもなった「アマデウス」より以前に書いた喜劇「ブラック・コメディ」に影響を与えたことを思い出し、終演後お会いした菊之助丈にそのお話しをしました。
想像するに、その「都鳥廓白浪」を撮影(稽古は既に撮影済みでした)することが決まっていたこともあり、私がディレクターを仰せつかったのだと思います。
足かけ五年で、菊之助丈がご出演なさった十五以上の芝居の稽古や本番を撮影すると共に、撮影以外の舞台も欠かさず拝見しています。その間、番組を五本作らせていただき、今回が六本目です。これらの番組は、菊之助丈との暗黙の約束で、プライベートな部分に踏み込むのではなく、あくまでも歌舞伎役者としての魅力と、その根幹となる歌舞伎の芸の世界を、一般の方にも分かっていただけるようお見せするものです。その結果、より多くの方が歌舞伎に興味を持ってくださり、歌舞伎に足を運んでいただければと思っています。そしてその原点は、「都鳥廓白浪」を拝見した、あの日の感動にあります。     (三室雄太郎)

構成・演出

三室雄太郎

演出補

三保谷文彦

撮影

篠崎順一
柴田義政

VE

湯沢允敏

音声

楠 敬昭
久保智弘

プロデューサー

大木由起子(BS朝日)
三室雄太郎