ダイワハウス presents 尾上菊之助2015 歌舞伎まっしぐら

ダイワハウス presents 尾上菊之助2015 歌舞伎まっしぐら

尾上菊之助丈の撮影を始めてから、足かけ6年で7本目、BS朝日で4本目の番組となります。ですが昨年、5年目と区切りの良いところで、番組制作者としては身を引かせていただくつもりでした。それを変えさせられたのが、長谷部浩著「菊之助の礼儀」(2014年11月 新潮社刊)と、前後して、44年ぶりに「岡崎」の場が上演されることで話題となった国立劇場12月公演「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」通し上演です。
長谷部浩芸大教授は、番組監修をしていただいたこともある菊之助丈の最も信頼厚い演劇評論家で、菊之助丈がロンドンでも上演した「NINAGAW十二夜」実現を裏で支えた方です。その「菊之助の礼儀」の最終章、
   二年ほど前、取材のあとの雑談の席だったか、菊之助が、
   「それは役者に生まれた以上、弁慶をやりたいですよ」
   と、もらしたことがある。
という文章に、私は、居住まいを正しました。引用を続けます。
   音羽屋の家は、義経、もしくは富樫を勤めるのが通例だ。父七代目菊五郎も
   弁慶は勤めていない。兼ネル役者と言われた六代目も同様である。身体の
   柄からしても、菊之助は弁慶ではない。それでもやりたいというのである。
帰結は、「菊之助の礼儀」を読んでいただければと思いますが、菊之助丈が弁慶をやる。ならば、その現場に居たい。と同時に、弁慶をやりたいという菊之助丈その人への興味が、一気に再沸騰しました。
その、菊之助丈と、岳父・中村吉右衛門丈との本格的な共演が実現したのが国立劇場12月公演「伊賀越道中双六」です。弁天小僧菊之助に代表される世話物(江戸時代の人たちにとっての"現代劇"で、町人社会・世相風俗を扱った芝居)を得意とする音羽屋の御曹司が、本格的な時代物(設定を江戸時代よりも古い時代にして、主に武家や公家の社会を描いた芝居)に取り組む。しかも吉右衛門丈を筆頭とする播磨屋一門に交って。菊之助丈が、身を置くのは、実の子供を殺してまで仇討ちを成就させる武家社会の厳しさと、それを背負った人間の悲しみの世界です。その芝居を見ながら、私は、自分の誤りに気付きました。菊之助丈が目指すものは、より深い表現世界であり、菊之助丈は、更なる高みを目指している。その現場に、私も身を置かせてもらいたい。
こうして、私は、決意を新たに、今回の企画書を書き、かくして、現在、編集真っ只中です。そして、最新情報では、OA後の7月、国立劇場で「義経千本桜」渡海屋・大物浦で、菊之助丈が渡海屋銀平実は新中納言知盛をお勤めになるとのこと。しかも吉右衛門丈の監修。菊之助丈さえ許していただければ、まだまだ現場に伺わせていただきたいと切に願う今日この頃です。

(三室雄太郎)

構成・演出

三室雄太郎

演出補

三保谷文彦

撮影

篠崎順一
柴田義政

VE

宮脇直樹

音声

塩屋吉絵

プロデューサー

大木由起子(BS朝日)
三室雄太郎