アナザーストーリーズ 運命の分岐点「羽生結弦オリンピック連覇~メダリストたちが語る最強伝説」

アナザーストーリーズ 運命の分岐点「羽生結弦オリンピック連覇~メダリストたちが語る最強伝説」

再放送のお知らせ
2022年
1月28日(金)10:45~(BS4K)
1月29日(土)8:45~(BSプレミアム)

判官贔屓が昔から嫌いだった。源頼朝の何がいけないのか? 坂本龍馬も苦手だった。船中八策大いに結構、だが自らの手で叶えてこそ完成ではないか? 夢半ばで倒れたことの背景に彼彼女の不幸は勿論あるけれど、ずっとずっと先を見据えて、結果を、未来を実現するために、言葉にならない思いを抱えて生き抜き、そして、勝った者を貶める輩の多い日本に、僕はずっと辟易していた。

いま日本で絶対的勝者と言えば彼以上の人はなかなかいない、羽生結弦さん。「勝つ」と公言して勝つ、そして勝った後に、笑顔や、涙を隠さない。日本では一部の層にとことん嫌われたり、苦手とされる人でもある。だが僕はそんな層こそ、ちゃんと観ろ、と言いたい。結果だけを斜に見て、笑顔や涙だけをうがって、あなたは最も魅力的な部分を何も観ていないのではないか、と。

作家の浅田次郎さんは言う。「芸術とは天然の人為的再現だ」と。僕が今回、羽生さんのピョンチャン五輪での演技を見返した時、アッと頭に浮かんだのもこの言葉だった。フィギュアスケートではなく、稀少な鳥の命懸けの求愛を見るような、天然への近しさを感じたのだ。それは、語弊を恐れずに言えば、以前取り上げた浅田真央さんのソチ五輪のフリーともまた違うものだった。人為の極限とも言うべき浅田さんのソチとは違い、あのピョンチャンの演技は、もはや世界にハニュウユヅルという生き物しかいなくて、ずっと見つからない、つがう相手を求めるような、孤にして高を感じた。人では無いのではないか…そう思うほどの域。

同じ舞台におけるほかのどんな人為も超越しているのだから、勝つのは当然。そんな天然と人為の境が極めて薄い感覚。それは、数で追い込める身体の鍛錬以上に、心をどこまでも追い込まねば出来ないものである。そしてそこまでの追い込まれた心の内実は、たとえどんなに羽生さん本人の言葉を用いても、表しきれないものだろう。

羽生結弦は何が凄くて、オリンピック連覇というとてつもないことを成し遂げられたのか?

そんな、正解のない問いに対し、今回自分なりの答えを模索してくれたのは、フィギュアスケートの世界で頂点に立ったことのある3人。
羽生さんとは他を圧倒する「勝利」の度合で並ぶ、五輪連覇者のディック・バトンさん。羽生さんとは怪我にも負けぬ「努力」の度合で並ぶ、皇帝エフゲニー・プルシェンコさん。羽生さんとは背中を見せ合う「友情」の度合で並んできた、ハビエル・フェルナンデスさん。スポ根じみるけれど、どこか1つの尺度でも並ぶもののある彼らだからこそ観える羽生結弦の高みを、それぞれ全く違う表現で語ってくれた。
そしてそれは、同じ国籍同じ言葉を使う間柄の我々の大半よりも、はるかに、ハニュウユヅルという存在の心の奥に迫るものだった。

羽生結弦の最も魅力的な部分。
それは、どれだけすごい人が説明しても全ては分からないほどの域に彼が立っていること。ぜんぶ分からないから、面白いのだ。
分からないからと厭う人、分からないから分けまくって分かった気になる人、どちらも勿体無い。

そして、だからこそ。

今回の番組でハビエル・フェルナンデスさんにどうしても聞きたかった、表彰式前、メダリスト3人だけが抱き合った時の、羽生さんの涙の理由。
何で聞きたかったかと言えば、羽生結弦が笑う時、泣く時。それは、彼がハニュウユヅルから羽生結弦に変わる時だと思ったから。きっとそこには、僕らにも言葉で分かるシンプルな理由があると思った。

ハビエルさんの答えは、それはそれは感動的で、そして、とことん分かりやすいものだった。
羽生結弦はハニュウユヅルであり、羽生結弦である。彼の演技をまだ観られる僕らはとても幸せだと思う。
阿部修英

これまでの再放送
2019年12月28日(土)16:00~16:59(NHK総合)
2020年1月14日(月)21:00~/20日(月)23:45~(BSプレミアム)

ナビゲーター

松嶋菜々子

ナレーション

濱田 岳

演出 

阿部修英

演出補

池田光輝

プロデューサー

髙城朝子

ゼネラルプロデューサー

田中直人