超人たちのパラリンピック 「“沈まない”女王 競泳 ジェシカ・ロング」

超人たちのパラリンピック 「“沈まない”女王 競泳 ジェシカ・ロング」

 久しぶりに泳いだ。水深4mのプール。ゴーグルをつけ潜って底を確認するが、焦りと恐怖心のせいかよく見えない。息もすぐに苦しくなる。
「ビート板を、ビート板をください!」番組プロデューサーを走らせて、事なきを得た。ロケ中に事故を起こすより、我ながら賢明な判断だった…。これは撮影現場での一幕。私はカメラテストで泳いだあとも水中にとどまって、今回の主役ジェシカ・ロングの登場を待っていた。
 ジェシカは米国の競泳選手で、小麦色に焼けた肌と白っぽい金髪、そして青緑色の瞳を持つ26歳。臆さない眼差しの彼女に微笑みかけられると、我々クルーはなんとも照れてしまうことが多かった。彼女は華やかで、安易にいえば障害者っぽくない。だから彼女が実は義足で、両足が膝までしか無いことに気づく人は、きっと少ない。
 そのギャップのせいか、ちょっとした段差をぎこちなく時間をかけて上っている彼女を見た時や、義足を外して太ももだけの足でチョコチョコと歩く彼女を見た時、私の胸は詰まってしまった。陸上で彼女の不自由そうな姿を見るたび、私は視線をほんの少しだけ泳がせていた。
 一方で水中の彼女に対し、私の目はむしろ釘付けになった。手先を剣のように尖らせて、高速ピッチで水をかく。50mのプール、これで何往復目だろうか。スピードは全く衰えない。両足が無いことも忘れ、もはやイルカでも見ているような気分。そんなジェシカの泳ぎを目の当たりにしたところで、私はふと彼女の「ある言葉」を思い出した。
”Water is a place of just freedom.”
 水の中に、地上の騒めきは入ってこない。忙しく動くプールサイドを横目にして、私は彼女の泳ぎに、ただただ見とれていた。
(眞下奈生)

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出演

為末大

語り

川島得愛

ディレクター

坂田能成

アシスタントディレクター

眞下奈生

アシスタントプロデューサ―

千切谷知子

プロデューサー

琢磨修一