合津直枝

プロデューサー / 演出 /
脚本 (野々山花見 名)

合津直枝

Gozu Naoe

「持っている・・・かもしれない?」

 先日、山田洋次監督に大ヒット作『幸福の黄色いハンカチ』についてのインタビューでお目にかかった。91歳の巨匠の体調を気遣って、リスケリスケでやっとご自宅での撮影が許されたのが、3月8日。ご自宅にうかがうならば、手土産は菓子よりは花を、と決めて新宿の花屋を数軒まわった。が、ピンとくる「黄色い花」が見つからず、取り急ぎ監督宅の最寄りS駅に向かった。飛び込んだ店は、なかなかの品ぞろえ。「黄色いお花を手土産にしたい」と話すと「ミモザはどうですか? 今日3月8日はミモザの日。イタリアではミモザは“幸せの花”と呼ばれるんですよ」と店員。“黄色“”幸せ“、これ以上の手土産はない!と花束を持って訪問。店員からの受け売りをそのままお話すると、監督はたいそう喜ばれ、インタビューも盛り上がった。撮影を終え撤収していると、「女性監督の作品で、肖像画を描くために孤島に渡る女性2人の話がよくて…タイトルは忘れてしまったんだが…」 監督に話しかけられ、即座に「『燃ゆる女の肖像』ですね」と答えながら、私自身もビックリ。監督はじめその場にいた全員もビックリ。実は、作詞家のクラスメイトが「ゴーヅだったらきっと好きだよ、見てみ」とその直前に薦められた映画だったのだ。――この日、私は「持っていた」!
 来し方に思い巡らすと「なんてこった。私ってとんでもなくついてない!」と嘆いてばかりだった気がする。けれど、よくよく思い起こせば、テレビマンユニオン初の映画(『幻の光』)で、原作の直木賞作家から1000円で原作権を譲ってもらい、起用した新人監督が世界的に名を馳せ、演出・脚本・プロデュースした連続ドラマからNHK朝ドラヒロイン3人を輩出、“朝ドラの母”(笑)と呼ばれたこともあった。etc.
ひょっとしたら、私って「持ってる」!? 
 若い頃、「晩年運がいい」と占い師に言われたことがある。「晩年っていつからかしら?」 もう少し待ってみよう。楽しいこと、誘ってください。


■企画・プロデュースした2時間ドラマ『真昼の月~続・病院で死ぬということ』(1994)は「放送文化基金賞奨励賞」「ATP賞優秀賞」「ギャラクシー賞奨励賞」の3賞を受賞。
■是枝裕和を起用した初プロデュ―ス映画『幻の光』(1995)でヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞、国内では映画プロデューサーに贈られる最高賞・藤本賞を受賞。
■初監督映画『落下する夕方』(1998)は、ベルリン国際映画祭に正式出品され、新藤兼人賞銀賞を受賞。
■大島渚監督の遺作『御法度』の現場を単独撮影で仕上げたドキュメンタリー『1999・大島渚・映画と生きる』はヴェネチア映画祭でビデオ上映。
■NHK連続ドラマ『書店員ミチルの身の上話』(2013)では、演出・脚本・プロデュ―スの3役で全10話を仕上げる。(戸田恵梨香、安藤サクラ、波瑠が、後に朝ドラヒロイン)
■最近では、伊集院静『乳房』、沢木耕太郎『檀』、吉田修一『悪人』、向田邦子『家族熱』の名作群をふたり芝居に脚色し演出する。