コウケンテツの日本100年ゴハン紀行 「実は食材の宝庫!東京」

コウケンテツの日本100年ゴハン紀行 「実は食材の宝庫!東京」

「100年先まで残したい食文化なんて東京にあるんですかね」
真っ黒いはんぺんを頬張りながら5年目の社員がため息まじりに行った。前歯にべっとりとついた青のりが、シーズン終盤でところどころ禿げて地面が顕わになったエコパスタジアムのフィールドを想起させる。
「横浜にはシュウマイしかありません。餃子は各地で【名物】の取り合いになっているけれど、シュウマイは横浜の一人勝ちです。うわっ、冷たい!」
新人とは思えないふてぶてしさが彼女にはあった。何でも試さないと気が済まない性分で、店員に勧められるまま熱々おでんの合間にかき氷を食らったわけだが、予期しない往復ビンタを受けて脳も胃も対応に困っている。その横で一人静かに畳いわしを砕いているのはこのグループで最年長、部長格の男だ。これ以上いわしを砕けなくなって顔を上げた。「『実家はどこですか?』と聞かれて『東京です』と答えるとき、自分にはふるさとがないみたいで恥ずかしい思いをした東京人を何人か知っているが、あれと同じだ。要するに東京にはふるさとと呼べるものがないのだ。懐かしい東京の味なんてないのだよ」
その時、隣のテーブルにいた初老の男が振り返った。さっきからずっと八海山をがぶ飲みしていて傍目には漁師という雰囲気だが、手には電子タバコ。違和感しかない。
「あんたら、東京の人?」しゃがれ声を店内に響かせる。3人は思わず顔を見合わせた。
「おたくこそ東京の方ですか?」新人が口を尖らせている。
「東京だよ。東京生まれの東京育ちだってのに、俺は何も知らなかった。東京の味は、てっきり立川の油そばだけだと思ってたんだが、そうじゃなかった」
目の前で5年目社員が苦笑する。初老の男はすかさず手に持っていた紙を広げた。西から東に向かって綺麗なグラデーションを描いた東京の地形図。10ケ所ほどに鋲が打たれている。三嶽、檜原、あきる野、福生、立川、青梅、東村山…。
初老の男が2時間近く、伝統と挑戦の物語をしゃべりまくった。新人は膝を落として呻いた。「私も軍鶏がほしい」

保坂ディレクターは私にとって親くらい歳が離れた大先輩。忘れっぽいところもあるが、気力は充実だし舌も確か。レシピなんかなくても目分量で最高の味を提供します。
(岸 枢宇己)

【出演】コウケンテツ 【語り】美村里江

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ディレクター

保坂秀司

サブディレクター/AD

中嶋旭洋

ヘルプAD

花田美乃莉

リサーチ

伊藤暢子

音効

塩屋吉絵

プロデューサー

岸枢宇己