キーウィ佐藤のポップス進化論

キーウィ佐藤のポップス進化論

 ラジオで音楽番組を制作することになりました。名付けて「キーウィ佐藤のポップス進化論」。
 なんだか不思議なタイトルでしょう? 不思議なところが、実は自慢なんです。タイトルを見てすぐに内容が想像できる番組なんかつまらなそうじゃないですか。
 そもそも、キーウィ佐藤とはいったい何者か?
 数年前まで某大学の大学院教授だったアメリカ文学者。現在刊行中の『トマス・ピンチョン全小説』の監修・翻訳をされていて・・・、というあたりでピンと来る方がいたら、あなたは相当のアメリカ文学通です。
 一方で先駆的なポップス研究者でもあるキーウィさんをホストに、第一夜、第二夜とゲスト・テーマを変えて、いろんな曲を聴きながら(中にはポップスというジャンルに収まらない曲が登場することもあります)ポップスの新しい楽しみ方を語り合うという番組です。
 レコード、CDの時代が続いたあと、21世紀に入って音楽をめぐる環境は大きく変わりました。
 着うたとして落とす、iPodにためる、You Tubeで直接聞く、などなど。音楽環境は日々、めまぐるしく膨張し続けています。今や手元のデヴァイスをワンクリックするだけで入手可能な無数の音源がクラウド上に溢れています。だからこそ、自分自身の興味に合わせてそれにリンクさせるための「教養」を、アイドルから卒業したリスナーは求めているのではないでしょうか。
 キーウィさんとスタッフが掲げるキャッチフレーズはただ一言。
 「いま必要なのは情報ではなく、知識です」
 この場合の知識って、決して堅苦しい話ではありません。今まで知らなかった音楽の新しい楽しさを発見する、そんな好奇心と遊び心に溢れた知識のことなんです。
 
 第一夜「日本の歌謡曲って、こんなふうに変わっていった」
 ゲスト:久保田翠さん(現代音楽研究者、キーボード奏者)
 クラシック畑で活動しながらブラック・ミュージックの大ファンで、最近は昭和歌謡も楽しんでいるという久保田さんをゲストに迎え、戦後日本の歌謡曲がアメリカのブラック・ミュージックの影響を受けながら、それをどのように「日本化」させていったのか。その受容の歴史をたどります。
 プラターズ、ハウリング・ウルフなどロックンロール以前のアメリカの歌から番組は始まり、フランク永井、森進一などを経由し、椎名林檎に至ってついに本家ブラック・ミュージックより「黒っぽい」歌が誕生する軌跡を追いながら、日本的歌謡曲のエッセンスに迫ります。ラストはローリング・ストーンズか、はたまた石川さゆりか。
 音楽的なテーマはズバリ、「三連符」。
 
 第二夜「ロックンロールが生まれた頃、こんな音が聞こえていた」
 ゲスト:いしいしんじさん(作家、最新作『ある一日』)
 いしいさんは戦前の蓄音機と膨大なSPレコード収集家です。CDでさえも一昔前のメディアになってしまいそうな現在、いしいさんの蓄音機はそもそも電気を一切使いません。いわゆる電蓄ではない手回しのSPレコード再生機です。
 これでプレスリーの「ブルー・ムーン」を聴くと、「すごすぎて吐き気がする」と、いしいさん。じゃあ、聴いてみようじゃないかというのが第二夜のテーマです。アメリカの1950、60年代。スウィングやビパップのジャズ、ポップスの甘い歌声、リトル・リチャード、チャック・ベリーらによるロックンロール旋風、そしてもちろんエルヴィス・プレスリー。
 リアル・タイムのロックンロールは、人々にどんな音として聞こえていたのか。そのナマ音を聴いていただきます。ラストの一曲は、あっと驚くサプライズです。(写真はキーウィさん)
(市川 陽)

プロデューサー

市川 陽/友野久夫

ディレクター

髙木 昇