プレミアムドラマ 「ドロクター」
<出演>
小池 徹平
木村 文乃 渡辺真起子 綿引 勝彦
山本 龍二 石田 法嗣 おかやまはじめ 柳川 慶子
久米 明 内海 桂子
イッセー尾形 ほか
<演出>
加藤 義人
<原案>
中村 伸一
<脚本>
田村 孝裕
【人から必要とされること】
日本人の多くが「病院」で人生の最期を迎える。かつては「家」で最期を迎えることが多かった。医者になってわずか3年目の新米医師が、福井県の山間、人口3千人あまりの村の小さな診療所に赴任する。へき地医療ゆえ、医者は自分一人。男には都会の病院に戻って外科の専門医として腕を磨きたいという夢があった。【人生の最期を家で迎えたい】という患者や家で看取りたい家族との触れ合いを通して、地域医療の現実と向き合いながら、長く、へき地にとどまる道を選んだ青年医師の苦悩と成長の日々をドラマにした。
○月○日 診療所ロケ
「今日は二人の中村伸一がいます!」
クランクインしてから数日後、ロケ現場にサプライズゲストが登場!
スタッフの紹介とともに現れたのは、主人公のモデルである現実の中村伸一医師。休日を利用して小池さんにエールを送りにロケ現場を訪ねてくれた。これには、小池さんも大感激!しかし、もっと驚いていたのは医師本人。この日は、若き中村医師が赴任した今はなき「名田庄診療所」での診察シーン。スタッフが古い写真をもとに当時の名田庄診療所の面影を再現。看板、受付の張り紙、薬袋、村の憲章など中村先生にとってはまさに感慨無量のタイムスリップのひととき。さらに、小池さん演じる青年医師が患者の血圧を測るシーンでは、「うーん、本物!」と感心しきり。聞けば小池さんの血圧を測る指先の何気ない所作が、まさに、日々、診療にあたっている医師そのものであると。小池さんの演技の中に改めて自らの原点となる出発の日々を見つめた医師は、心配な患者がいるのでと、足早に福井の診療所へ戻っていった。
○月○日 診療所ロケ
エキストラ出演に地元の方々へご協力を頂く。診療所の待合室。日頃から、待つ場所とあって地元の方も和気あいあいムード。そんななか、看護師、新海役の渡辺真起子さんは白衣の着こなし、身のこなしもまさに、ベテラン看護師そのものとあって、エキストラの皆さんもいつしか、渡辺さんが女優であることを忘れてついつい健康の悩みを打ち明ける。最近、肝臓の具合がちょっとと愚痴るある中年おじさんに、渡辺看護師が飲み過ぎなんじゃないの、いつまでも若くないんだから、と一喝。これにはおじさんも、はい、気をつけます。白衣の魔力の凄さか。
○月○日 病院ロケ
イッセーさんが、一冊の文庫を持ってくる。「ロクさんなら入院する時、こんなの読むかな」表紙を見て、すぐに彼が演じる男の病床に置いた。パスカルだった。ロケ中、イッセーさんとは、本の話をたくさんした。あるきっかけから互いに好きなのはハイデガーであるということがわかり、私は書棚の奥で死んだように眠っていた「存在と時間」を引っ張り出しては、翌朝、新宿スバルビル前5:30という鬼早い集合・出発なのに、束の間、貪るように文言と格闘する。
○月○日
訪問診療のロケ
山梨のある農家をお借りして、青年医師が在宅のお年寄りを訪ねて診療する場面の撮影。制作スタッフが探してきてくれたのは、高台の一角にあり縁側に面した部屋からは自分の田んぼが見渡せる絶好のロケーション。介護ベッドを持ち込み、内海桂子師匠が横になり、緑輝く一面の苗代を静かに眺めているシーンを撮影する。温かい家でのロケは、その家が持つ、まあるい空気に包まれて穏やかに心地よく進行するものだ。その日のロケも無事に終わり、撤収をしているとロケセットにお借りした家のご主人が見せたい写真があるという。一枚の写真に驚いた。ベッドで寝たきりのおばあちゃんが家族に囲まれて笑っている姿だった。それはまさしく、今日、撮影した風景そのものだった。「おばあちゃんもいつも田んぼ眺めて寝てました。撮影を見てたら思いだして、タンス探してみたら写真出てきて…」と語る御主人の目は濡れていた。感謝。
○月○日 看取りのロケ
死に行く老人を見つめている場面で小池徹平のほおにこぼれる涙が一筋光った。
すぐに私がいる所へ飛んで来て二人でモニターを見た。すいませんと小声で言。内なるものの情動がゆっくりと波のように寄せてくる静かで強いものになった。台本では涙を流すシーンではなかった。しかし、小池徹平の男の横顔がいい。
青年医師には、子どもの頃の少年野球での悔しかった忘れられない記憶があった。
「人から頼りにされない」「必要とされていない」青年医師の秘めた心の痛みを初めて癒してくれたのは、診療所の医者として生きることだった。人は自分が誰かに頼られていると実感できることで、勇気や元気の一歩を踏み出せる。地域医療の現実を超えて、人の心に本当の力を与えてくれるのは、金や地位や肩書や名誉でもなく、誰かのためになる、必要とされていると感じることではないかと思う。
(加藤義人)
演出
加藤義人
撮影
川越一成
VE
久米田俊裕
照明
高山喜博
音声
中前哲夫
美術
鈴木喜勝 村山和彦
衣裳
江頭三絵
ヘアメイク
近藤美香
現場応援
竹村悠