農家は家族でいとなむもの。
仕事時間が自由で良い反面、田畑の規模も違えば、収入も違い、家族構成も違う。困ったことがあっても心から相談できる相手がそういないのかもしれない。
そして、農家はやさしい。
イノシシなど野生動物が里に下りてきて農作物に大損害がでても、しょうがないか、もう辞めようか、となってしまうと聞いた。お天道様の機嫌の移り変わりを相手にしていると、あげたい声も時とともに消えてしまうのか。
地方に点在する古くからの農家。彼らは生産者であり、食を生み出し、生活に彩りを与えてくれる、生きるための根本にある生業のはずだ。稲葉さんと宮川さんを取材していてハッと思わされたのが、「日本の農家は何かを諦めなければいけない職業になっている」という言葉。過疎、高齢化、鳥獣被害、耕作放棄地。そして、人が怖くて近づけない混沌の森と山。そんな時代がもう目の前に迫っているこの山大国で、いろいろと山積した課題を、農家だけ地方だけの局所的な話で済ませてしまっていいのだろうか？
そんな空気を一変させる可能性を秘めたパラダイム・シフトを狙って、このふたりは「農家ハンター」というやり方を始めたのだと思う。宮川さんの事務所に無造作に置かれていた井上岳―著『日本列島回復論』（新潮選書）。読めば彼らの考えていることに少し近づけるかもしれない。
（下口谷充）