情熱大陸 雪氷学者 杉山 慎

情熱大陸 雪氷学者 杉山 慎

世界的な氷河研究リーダーが「正直わからない」を連発 
誠実に 飾らず 科学を邁進する 杉山教授との半年間

現地での氷河観測は、実はかなり過酷だ。そこにあるのは道なき道ばかり。氷河が押し出した「モレーン」と呼ばれる土砂の盛り上がり周辺は特に、大小の岩や石が散乱して非常に歩きにくい。足元はグラグラと不安定で、少しでも気を抜いて転倒し怪我でもすれば、救助も呼べない場所ゆえに命取りになりかねない。
そんな過酷な環境下で、杉山さんの大自然の下での経験値の高さは際立っていた。彼は非常に健脚で、還暦まであと3年とは思えない。いつも常に先頭を歩いていた。
道中、時にへばってしまった学生をフォローする姿もあった。ペースについてこれない者がいても決して怒ることなく待ち、体調を崩した者の荷物を代わりに背負う。しかし、移動の初めは自身はなるべくフリーハンドでいるようにしていた。何か不測の事態が起きたときにすぐ対応できるよう、常に余力を持たせる。そうした振る舞いの端々に、これまでの経験の質が表れていた。
過酷な環境下で周囲に気を配り、不測の事態に備えるためには、何よりも自身の体力の温存が必須となる。彼の歩き方を見ると、登山のプロたちがよくやるような、両腕を前で組む姿勢をとっていた。本人に聞くと、「これが一番楽なんです」と、誰に教わったわけでもなく身についたものだという。両手を前に組み、足元に集中して一歩一歩進む過程。道なき道を、自分の判断で行くことが彼にとってはとても心地よい時間なのだそうだ。

幾度か氷河観測に同行するうち、面白い現象が起きた。周囲を一緒に歩く研究者や学生たちも、いつしか杉山さんに影響され、気づけば皆が腕を前で組んで歩く集団になっていた。大変な場所では特に、人は少しずつ現場から学び、生き抜くためのスキルを身につけていく。過酷な自然の中で生まれたその光景を見ながら、ふと杉山先生の言葉が頭をよぎった。
「山登りは身近に成功体験を積み重ねられる機会。私も重大な決断をするとき、自信の源になった」

あの腕を組んで歩いた氷河への道程もまた、確かな自信へと繋がっているのかもしれない。
(下口谷)

P&D 

下口谷充

演出補

若木翔平

AP

中村美奈子

構成

田代裕

プロデューサー

渡邊美幸(MBS)