日曜美術館50年 世界一ミュージアム

日曜美術館50年 世界一ミュージアム

「その絵は2メートルぐらいある巨大な絵で、大きな牝牛を描いているのですが、
 牧童に引っ張られてもイヤだイヤだと振り返っている。
 でその牝牛の振り返る視線をたどると・・・大きな絵の端の端の端っこに、
 子牛の鼻先だけがチョコンと描かれているんです」

いまいるこの組織の入社試験の際に、卒論も修論も中国美術で書いた、と
いう履歴書を片手にした面接官に、「中国美術なんて何が面白いの」と言われて
こう熱弁した。
500年も前に描かれた絵の魅力を、描いた画家に寄り添ってもらうような気持ちで。それが届いたかどうかは分からないが、いまこうしてこの組織にいるのだから、きっとあそこにいた誰かには届いたのだろう。

美術はこうして、時代を超えて魅力を語ることができる。

学生の頃から見ていたNHKの「日曜美術館」。
ぼくが生まれるよりも前、1976年に始まった番組は今年で50周年。
日曜美術館「日美」の記憶で忘れがたいのは、
学生時代、ある展覧会でアルバイトをしていた時。
お寺の宝物を展示するなかに、ぼくが卒論で書いた茶碗も展示されていた。
閑散とした美術館の中で、自分のすきな作品を見る役得に恵まれていた。
ところが、ある日、この展覧会に、黒山の人だかりができた。
「日美」で放送されたのだ。
あの茶碗も番組に含まれていたので、「あれはどこですか」とお客さんに
次々と尋ねられた。テレビで見たものが見たい、というお客さんは
好奇心もあるので、「これはどういうところがすごいのですか」と
尋ねられたりもした。卒論で書いたから、それなりにスラスラとは答えられる。
結果、ほうほう、と集まってくれたお客さんたち。
黒山の中にさらに黒山を作ってしまった。
―――これがきっと、テレビの力ってすごいな、とナマで体感した最初だった。
自分がすきなものを、たくさんの人に見てもらえる、喜び。

「日美」を通じて知ったアーティストや作品もたくさんあった。
なかでも心惹かれたのは石田徹也。
1度見たらわすれられないあの「顔」。そしてあのユーモア。
ぼくが子どもの頃からだいすきな「大千世界のなかまたち」の世界にも
どこか通じるものを感じて、個展を見に行った。
ブリューゲルを大友克洋さんが語るとこんなに魅力的なんだ、とか、
「芸術」と「それを見て、語る人」の掛け算も面白く、
紹介された展覧会を見に行ったのも5度や10度ではない。

と、そんなご縁のある番組が、ことし、放送開始50年の節目。
記念番組の演出を、我が業界の姉たる倉森京子さんのご縁を得て担わせて頂くことになった。
ひたすら気をつけたのは、何か。
番組の歴史をけがさないこと?
美術の魅力を伝えること?
―――正直に言えば、どちらでもない。
「これまでの日美でいちばん面白い回を作ってやろう」ということだった。
それは、まさにダヴィンチや牧谿や加守田章二やシーレや石田徹也が、
そういう心持ちで作品をつくっただろうから。
リスペクトは放っておいても抱く。過去の映像もたっぷり使わせて頂く。
でも、そのうえで、いちばん面白くしたい!

とはいえ様々な条件はあるから、ひとつだけ、
「この番組でお迎えするスペシャルなゲスト」だけは、
とびきりスペシャルなひとにしてほしい、とお願いした。
その人に視聴者のみなさまの代表になって頂き、
その人に面白い!と思ってもらえることがひいては「いちばん面白い」に
つながるような人。

そうしてキャスティングさせて頂いたのが、
天海祐希さんだった。

今回の番組のCP中野力さんはかつて3度に渡り天海さんと
海外を訪ねる番組を制作。そのご縁はとてもありがたかった。
ぼくも昨年、「その時世界が動いた」という番組でご一緒し、
エリザベス1世の伝説のスピーチを担っていただき演出冥利に尽きたばかり。
この1年でまたご一緒できる僥倖にひたすら感謝した。
そして。
天海さんにお見せする!となれば一気に演出プランが湧き出る。

50周年を記念して開かれている展覧会、そこにお招きしよう。
展覧会にはピカソ、セザンヌ、フランシスベーコンの傑作が展示される。
ならばそのアーティストを誇りに思う、同じ国の方にプレゼンして頂こう。
NHKであることも50周年には大事だから、よし、語学講座講師のみなさんに。
MANDY B.BLUEさん、クロエ・ヴィアートさん、ほんまにローソンさん。
さらに日本美術も、縄文から曾我蕭白まで展示される。
それは誰に?―――自分がいちばん見ていた学生時代に「日美」を司会されていた石澤典夫さんに!
もちろんふだんの「日美」の素晴らしい司会お二人にもご出演頂きたい。
坂本美雨さんの回をしっかり見よう。
お、石田徹也をご覧になっている。わぁ、なんて素晴らしいコメントだ・・・
かくして59分番組の濃密なる構成は、スルスルと、体感では1日ぐらいで書けた。
しかし構成を書いたところで、編集をしないといけない。
でも平行して天海さんをお迎えする収録の準備もしないと!
よし仲間を頼ろう。頼もしい後輩たちが、素晴らしい編集をしてくれた。
最初にぼくが書いた構成などよりずっと面白いVTRで、彩り、かたちづくり、ふくらませてくれた。

そうして手ぐすね引くように迎えた、天海さんとの収録。
語学お3方も石澤さんも素晴らしい!
「日美」司会の守本奈実さん(なお妹&むすめの先輩でもある)の巧みかつ柔らかな進行もあり、途中で興奮を隠せなかったぐらい、面白い収録になる。
そして収録最後。
天海さんに問うた。
「美術って何が面白いと思いますか?」
それはあの日、ぼくが面接で聞かれたのとほぼ同じ質問。
しかしぼくは(あの日の面接官と違い?)安心していた。
それまで天海さんが、ピカソを、セザンヌを、ロダンを、フランシスベーコンを、縄文土器を、曾我蕭白を、江戸幕末明治の超絶技巧を...目の当たりにしてのべられたその感想に、圧倒的な美術への「愛」と「対話の深さ」を感じていたから。

そして天海さんは答えてくださった。とびきりの、素敵な答えを。

それはぼくが学生時代以来、美術を愛好してきて良かったと、人生を肯定して頂いた気分をいだけたほどに。

いったいどんな言葉だったか、それはお楽しみにしていただきつつ。

59分。
美術というと高尚?難しい?と思ってしまうかもしれないけれど、
高尚にしたほうが魅力的なところは高尚なままに、
でも柔らかくしたほうが魅力的なところはとことん柔らかく、
とにかく「いちばん面白くしたい」と思ってつくりました。
きっと50年の先達作り手の皆さんの厳しい視線も浴びるだろうと思いつつ、
しかしテレビもまた、ただの現在であるだけでなく「作品」でもあると信じている身として、しっかりと、描き、彫り、焼き上げ、紡ぎました。

ぜひご覧ください。
(阿部 修英)


司会 坂本美雨 
   守本奈実アナウンサー

出演 天海祐希
   
   MANDY B.BLUE クロエ・ヴィアート ほんまにローソン
   石澤典夫

VTR「ことば」
   池波正太郎
   井浦新
   大江健三郎
   大野一雄
   岡本太郎
   岸惠子
   北野武
   谷川俊太郎
   松任谷由実

VTR演出 寺田昂平
     髙村安以

演出補  橋本すず


応援   園木杏実
     松橋和也

撮影   入江領
     鈴木優介
照明   荻野真也
     長谷川真悟
     中上歩
     永井日出雄
音声   林絵海
     河辺摩周
     今野ソフィアン

編集    張博文
音響効果  井貝信太郎
オンライン 佐分利良規
ミキサー  三井慎介

展覧会担当 山之口明子(NHK)
      山崎哲(NHKプロモーション)

デスク   斉藤光江(NED)

CP 倉森京子(倉森京子事務所)
      中野力(NHKエデュケーショナル)
      河井雅也(NHK)

総合演出  阿部修英


番組関連展覧会 「NHK日曜美術館50年展」開催中
東京会場 2026年6月21日まで 東京・東京藝術大学大学美術館
静岡会場 2026年7月18日(土)~9月27日(日) 静岡県立美術館
大阪会場 2026年10月10日(土)~12月20日(日) 大阪中之島美術館
詳細は下記ホームページご確認ください
https://nichibiten50.jp/

P・総合演出

阿部修英

VTR演出

寺田昂平
髙村安以

演出補

橋本すず

応援

園木杏実
松橋和也