
椎名誠が南米を旅したときのエッセイに、現地でたまたま手に入れた日本の食べ物に陶然となる場面があった。その食べ物とは醤油。毎日毎日塩味の肉ばかりで疲れ切った舌と胃に、お湯で薄めた?油を流し込んだその瞬間、「うま味」が電撃のごとく全身を駆け抜けたのだ。彼は悟る。「おれはうま味の呪縛から生涯逃れることはできない」と。
日本人のDNAに組み込まれた「うま味」が、いま「UMAMI」として世界の共通語になり、各地の食文化を変えようとしている。いわば「日本発の食の黒船」。スペインではかつお節が作られ、ニューヨークの料理学校には昆布の講座があり、菜食主義者たちは干し椎茸に熱い視線を送っている。その最前線を追う。
(伏谷毅彦)