新プロジェクトX 挑戦者たち「“いちごの王様”となれ 〜福岡発 世界への逆転劇〜」

新プロジェクトX 挑戦者たち「“いちごの王様”となれ 〜福岡発 世界への逆転劇〜」

新プロジェクトX。

「新」とついてはいるが、誰もが知る中島みゆきさんの音楽、田口トモロヲさんのナレーション。
テレビの伝説的な番組に今回、はじめて参加した。
テーマとしたのは「あまおう」。
私の住む千葉の片田舎のスーパーでも、季節になると何千キロの道のりを超えて並ぶ。
2012年に中国と香港取材をした際、それはたまたま反日の風すさまじい時だったのだけれど、
香港の街角で「あまおう」が堂々と売られ、なんなら飛ぶように売れていたのを見たのが企画のきっかけだった。
味は、物理的な距離も精神的な距離も超える。
映像としても真っ赤な粒でフォトジェニック。テーマにはぴったりだと思った。
―――しかし正直、最初は、不安ばかりだった。
過去のことを扱う番組ならば山ほどやって来たし、調べてまだ知られていないことを聞き出し、
それを1つの物語に紡ぐことは、自分がディレクターとして最も得意にすることの1つだ。
しかし、この番組は、ただ「知られざる逸話」だけでは作れない。
歌詞にある。
「地上にある星を 誰も覚えていない 人は空ばかり見てる」
「名だたるものを追って 輝くものを追って 人は氷ばかり掴む」
記事や参考書籍を渉猟し、電話取材は行い、企画書はなんとかまとめて提出し、採択受けたが、
本格取材が始まるまで、「空ばかり見て」「氷ばかり掴む」ことにならないか、不安だった。

この不安が氷解したのは、1人のひとに出会ったからだった。
今回も番組に出演いただいている、三井寿一さん。
のちに「あまおう」となる新品種の開発に携わった、福岡県農業総合試験場のもと職員。
まずはカメラを入れずに、ご挨拶と、取材。
取材は当初1時間半の予定だったが、2時間半に伸びた。
伸びた理由は、とにかく三井さんが真剣に「答えて」「応えて」くださったからだった。
このとき私はにわか勉強だったので、とにかく聞きたいことはなんでもぶつけた。
いちごは他の作物と比べて何が違うのか? できなかった時の悔しさは? できてもまだ安堵はできなかった?
基本的なことも、ぶしつけなことも、すべて。
これに対して三井さんは決して「もう終わったこと」ではなく、「今に続いていること」として語ってくれた。
厚さ10センチには及ぶだろうか。分厚いファイルをめくりめくり。正しい数値、正しい日取りをもとに、丁寧に。
記事や本だけではスター品種となった「あまおう」がひとつ燦然と輝く星、頼れるよりどころの氷山に見えていたが、三井さんの話を聞くだけで、まさにその星から地上へと星座が伸びていること、氷山を浮かべる大海が深いことを知ることができた。
地上にも星がある。氷山を結実させる大海原がある。
この思いをさらに深くしたのは、三井さんにご紹介いただいた今回のもう1人のスタジオ出演者・深町光治さんに取材した時。
「あまおう」が世にでる前、2つの品種から1つに絞り込む試験栽培に参加した数少ない農家の1人だった深町さん。
「あまおう」という栄光を勝ち得たのだから自慢気に語って頂いても良いところ、深町さんはまず三井さんへの大きな感謝を述べ、そして自分はあくまで2000件の福岡いちご農家の1人だ、そしてだからこそ、試験栽培に2000件の運命がかかっているから励んだのだ、という姿勢で語ってくださった。
ここにもまた、星座が結ばれる。2000件の農家。海が深くなる。福岡の大地、根ざす土。

取材すればするほど、見えてくる広さ深さ高さ。1つの星、1つの山を成すために積み重ねられた汗の海、熱の大地。
ただこれでまだ不安がぬぐえたわけではなかった。
実制作に入ると、今度は番組の「伝統」が重くのしかかる。
「新」がつく前のプロジェクトXでは、昭和の高度経済成長期のプロジェクトが多く取り上げられた。
新幹線、トランジスタラジオ、青函トンネル、私の祖父も人生最大の仕事としていた黒部ダムの建設など、本当にたくさんの「地上の星」たちが取材されていた。彼彼女らは映像や写真に収まる時間も惜しんで奮闘していたから、その時を物語る映像や写真は決してふんだんではない。
「熱」をつなぎとめるために、しっかり伝えるために、この番組では再現ドラマを交えて紹介するのが常だった。
時に本人が現場で再現をすることも。それが番組の特徴だった。
―――でも「新」となってからは、平成以降の話。携帯電話も普及し、使い捨ても含めてカメラが溢れた時代。
写真が、(昭和と比べて)山ほど、ある。だから再現ドラマを用いなくても作れてしまう。
だけどそれでは、「熱」が伝わらない。かつてのシリーズが再現ドラマを「過去の熱を甦らせる魔法」としていたのを、なんとかして今回も紡げないか。
そう悩んでまずお願いしたのが、三井さんに、もう1度あの頃の服を身につけ、開発の現場に立ってもらうことだった。
過去のシリーズも時々あった、「本人による再現」である。再現再現した再現ではなく、本人にお願いする。
これは結果、大成功だった。当時の同僚であった松岡強さんが、ご退職前の最後の月で共に参加してくださった。
一気に甦る、「あのころ」。
いちごの品種開発は、技術革新ももちろんあるけれど、最後には人の手によるものがまだまだ大きい。
だから十数年から二十年の時を経ていても、お芝居ではなく、あの頃のままの動きがそのまま見られる。
この「本人による再現」の部分をなんとしても核にしよう。

取材は、私の最も頼れる後輩であり仲間である葛谷朱美Dと共に進めた。私と真逆の性格、しかし目指すところはいつも共鳴してくれるおかげでロケは完璧と自画自賛できるものになった。
私の相棒たる入江領カメラマン、音声の林絵海さんも
「星」と「海」を感じながら、氷だけを掴まない最高の一瞬たちを刻みとってくれた。
編集では、歴史番組のように語ってしまいがちなナレーションを「今目の前で進む」文体として語るのに当初苦戦したが、
相棒たる編集マン大川義弘さんが粘り強く付き合ってくれ、
そして頼もしい歴戦のデスク山本出さんが明るく背中を押してくださり、
さらには旧シリーズを最若手Dとして制作した堤田健一郎CPが前のめりに共により良きもの、より伝わるものを目指してくれる。
どんな時代、どんな空気がその時代に漂っていたかを象徴するアーカイブ映像は、
ADの園木杏実さん西崎羽美さんが丁寧に探し出し、
許可も取得してくれる。ここでも世代を超えてテレビ制作者たちの星座がむすばれていく。

取材の際はたくさんの関係者の方にお世話になった。
スタジオにご出演頂いた三井さん、深町さん。
VTRにご出演頂いた、農家の永翁和成さん。福岡県(当時)の小寺均さん。重松秀行さん。境正義さん。
試験場(当時)の松岡強さん。吉野稔さん。東京青果の 福川祥広さん。JA(当時)の木下裕二さん。
味珍味の フランキー・ウーさん。
ご出演頂いた方以外にもたくさんの方にご協力いただいたので名前を全て挙げきれないことをお詫びするが、本当に誰1人欠けても成立できない「星座」を見せて頂いた。

そして迎えたスタジオ収録。
番組を見て頂きたいが、まさに地上の星が輝いた素晴らしいスタジオとなった。
田口トモロヲさんのナレーション収録。最初のQボタンを押す時、ひさびさに震えた。
完成し、ラストでエンディングの「ヘッドライトテールライト」をあらためて聞いた時は、涙が出た。
こんなにたくさん作られているのに、まだそんな思いを制作者にいだかせる。まったくすごい番組である。

最初に提案を書いた時からはもう一年が経とうとしている。
しかし、いま私が感じるのは、やっと迎えた放送、という感覚ではない。
やっと星座を、天上から地上に星がつながる姿を見つけだせた今、それを見てほしいという思い。
それだけだ。

ぜひご覧ください。
(阿部 修英)

【MC】有馬嘉男 大谷舞風
【語り】田口トモロヲ

※NHK ONEで本放送「同時配信」、「見逃し配信7日間」、再放送「同時配信」がご覧いただけます。

P&D

阿部修英

D

葛谷朱美

取材

園木杏実
西崎羽美

CP

生田聖子(NHK)
堤田健一郎(NEP)