
ディレクター&総合演出 内山 雄人
1990年 テレビマンユニオン参加
1993年 「世界ふしぎ発見!」Dデビュー
総合演出・演出 主な作品のみ
日本テレビ GPレギュラー「先輩Rock you!〜15」
「未来創造堂 〜09」特番「時空警察シリーズ」
テレビ朝日 「テストザ・ネイション シリーズ」
NHK アナザーストーリーズ「あさま山荘事件」「よど号ハイジャック事件」「ドリフターズ」「立花隆vs田中角栄」
2016年 NHK渋谷の街を初めて封鎖 生放送スポーツ特番 「どこでも競技場」 企画・総合演出
2016年 森達也vs 各局名物P陣 トークバトル@ユーロスペース 「映画“FAKE”にTVが噛み付いた?!」主催・司会
2018年 東京タワー内常設映像「東京500年シアター」監督
2021年 現役菅義偉総理を描いた政治ドキュメンタリー映画 「パンケーキを毒見する」監督
2023年 安倍晋三元総理を描いた「妖怪の孫」監督
大変といえば大変
10年前に書いたココの文面を見直したら当時すでに「TVは完全に右肩下がりの斜陽産業」で「明るい未来なんて保証されてない」と暗に「こんな業界はお勧めしない…よほどの覚悟がいるよ」と記されていた。我ながら感心する。ナイーブで楽しげなお仕事ぶりを列記しているこのコーナーで、はっきり毛色が違う内容だったからだ。
この業界の”大変さ”は加速している。番組制作予算は驚くほど落ち、一方、物価高騰、取材費高騰、技術等リソース大幅削減、制作現場は弱体するばかり。で、ON AIRで流れてくるのは(入社希望者世代ってTV見ないし、TVも無いか)類似企画か食べ物、旅行・アンケート・データ・芸人をこねくり回した番組ばかり。暇つぶしにも至らない…感じでは。
オールドメディアと揶揄される信頼感の縮小、数字優先による多様性の欠いた編成、業界全体の構造的萎縮が止まらない。「圧倒的なTV視聴体験」で育った自分としては、残念な限りだ。
しかもYouTubeやSNSによって個人発信が横行、映像が溢れ、玉石混交のカオスだ。相対的に「プロ」なんて無価値化するのは当然で、厳しい時代にいる。
しかし視点を変えればシュリンクしているのは、「TV的な」に陥ったコンテンツでありメディアだ。
勢いあるサブスクでは、エロ・グロ・社会派・裏社会の大型ドラマやスケール感のある恋リアリティショーが話題になっている。つまり「TVじゃできない」事がポイント。映画界でも、異例の大ヒットの「国宝」に限らず「侍タイムスリッパー」もマーケティング視点でも真逆の存在で、まさにTV的じゃないといえる。私のドキュメンタリー映画の体験からも言わせてもらえば、「TVじゃできない」に勝ち目があり、可能性が広がっていると信じている。ブルーオーシャンはまだ、ある気がする…が、大変は大変。
キツいといえばキツい
「ADとかTVの現場ってキツいんすよねぇ…。」これは10年前と完全大転換が起きた。今のADはキツい意味が逆になった。2019年の働き方改革だけでなく、パワハラ・セクハラ問題をウチも抱えたこともあり、ADの仕事量、時間的拘束を過度に守られるようになった気がする。逆にディレクターは結局一人残業、仕事量も増え「最低限のお仕事をADにお願いする」システムになった、気がする。我々が体験した半分に満たない現場の経験値、耐久力、訓練反復量。「AD、キツいんだよねぇ」はディレクターから漏れるグチとなった、気がする。ある種、ADが不憫な、気もするけどね。
そんな中でも「仕事をもっとやらせてください」とガシガシ求める頼もしいADがいるのも当然だ。
「若い時に自分のキャパをどれだけ拡大したか? 一人前の時にキャパが狭いと命取り」我が持論なり。
見事ディレクターになったはいいが、壊れて消えていく若手の多い事ったら…。
だが、勘違いしないで欲しい。初の女性総理の「働いて働いて働いて…」とは意味が違う。ボクらのクリエイティブの現場は、「仕事」というより「趣味や楽しみやこだわりの延長」と考える。
「もっと工夫したい、もっとカッコ良くしたい」から時間を忘れて「楽しむ」し「苦しむ」のはプライドの証。そんな先輩の姿をAD時代に共有できた事がボクの財産だ。
毎週毎月毎年、違うコト、違う人、違うテーマを前に、戸惑いと強烈な刺激に熱狂と興奮し、乗り越えていく。あとはハイボールと日本酒とジンで冷ますだけ…ザ昭和! だっておっさんだもん
古くさいといえば古くさい
テレビマンユニオンは制作会社として最古参。驚くほど古いまま。私も含め高年齢メンバーがゴロゴロいて、自民党の老害とは違う意味で、高齢化社会ニッポンのような無理が起きている気がする。
メンバー制度もブレずに堅持されている。メンバー選挙で決める経営陣、故に経営のプロっぽさは育まれない。会社の方向性なんて決まるはずもなく、個人の力の結集、いわば野武士集団の自由勝手な運動体。精鋭集団を気取ってみても、実態が追いついていない事を、その船が危うい今の厳しい現実が物語っている。
ただ誇るべき事として、創立時のリベラルな精神、哲学が守られているカッコよさがある。
2021年。現役の菅総理をテーマにした前代未聞の映画「パンケーキを毒見する」を私が監督するにあたり「現政権に物申す内容なのでNHKや民放相手のユニオン全ての仕事に軋轢があるのでは」と揶揄する声かあがり、メンバー総会に諮られた。そこで冷たい発言を浴びるかとおもいきや「本来ユニオンは成田闘争の…」という声に始まり、政治モノだからと避ける事なく、リベラルであり寛容であり、皆が制作を後押しする声だけだった。まさに胸熱な時。
お陰様で、パンケーキに続き、ネトウヨの怖さを感じながら監督した「妖怪の孫」と連発してTVでは知りえなかったヒットの実感と作る意義を味わった。制作会社界隈の中でも「特異な存在感」と弊社が映る事に一役買えたのではと自負している。イマドキのリスク管理と利益優先の会社では不可能な話だ。
古臭いがブレないイズムが ここにはある。
正直、制作会社がドンドン潰れていく、また就職した新人がバンバン辞めていく昨今のご時世において「なんとなく豊かな人生」を求めて来るならお勧めしない。
貧しくても楽しいチャンスがあるなら…という淡い夢を抱くお方もお勧めしない。
本気で映像表現で食っていく、その為には苦労も屈辱も乗り越える…プロになる厳しさを受ける覚悟があるか…とまずは自分にしっかり問いただして欲しい。
10年前よりさらに厳しい現実があるのだから。
















