アナザーストーリーズ 運命の分岐点 「兵馬俑は見ていた!~巨大遺跡に翻弄された人々~」 リメイク
担当Dの見どころ紹介(NHK ONEウェブサイトより転載)
「よもや地中に埋め隠しているとはおっしゃりますまい ハッハ」
(原泰久 『キングダム』 39巻 416話)
累計発行部数1億部を超える漫画『キングダム』。2000年以上前、中国をはじめて統一した始皇帝の覇業を、下僕出身の主人公・信の出世譚と共に描く壮大な歴史絵巻。私も何度も番組で取り上げさせていただいた極上特上のエンターテインメントだが、作者の原先生(ありがたいことに個人的に親しくさせていただいてもいる)は、『史記』などの歴史書を渉猟し、史実と、史実では分からない部分の想像とを絶妙にミックスして描く。物語の中で始皇帝と対立した国のNo.2である呂不韋が始皇帝を押しつぶす反乱を策謀した際、始皇帝は「1万の伏兵がいる」と反論する。呂不韋はそんなものはあるわけない、と鼻で笑い、そしてこの記事の冒頭に記したセリフを吐く。
──これは明らかに、原先生の目配せだ。始皇帝がじっさいに「地中に埋め隠した」1万近い兵たちへの。
1974年に発見された、「兵馬俑」。副葬品として、等身大で作られた始皇帝の軍。現在、発掘されただけでも8000体。発掘開始から50年が経った今でも発掘が続き、兵士だけでなく、雑技をするものや水鳥なども発見。秦のテクノロジーと文化の高さを圧倒的に見せつけるものだ。しかし、始皇帝が自らの墓の副葬品として作らせてから2000年以上の間、ずっと土の中に眠っていた。そのまま眠り続けていてもおかしくはなかった。
それを偶然掘り出したのは農民、楊志発さん。旱魃(かんばつ)のなかで水を求めて荒れ地を掘り続けた中で、偶然クワがぶつかったのが1体めの兵馬俑。そこからあれよあれよと見つかった8000体。まさに20世紀最大の発見だ。
この楊さん、取材したのは2017年(今回の放送は2017年制作のリメイクでもある)。その後9年でいろんな番組で3回取材したが、この2017年がはじめて。そしてこの最初の取材の時は、楊さんの警戒心が強かった。
「いい加減に報じられたくない」──そんな思いを強く感じた。
その気持ちもわかる。くわしくは番組をご覧いただきたいが、楊さんは1974年に発掘してすぐに「第1発見者」として世間に称揚されたわけではない。ちゃんと役所に届け出たのに、その後は遺跡から遠ざけられてしまい、中国政府に正式に発見者として認められたのはだいぶ後、1990年代になってから。その間に、兵馬俑は世界でも1、2を争う有名な遺跡となった。認められてからも波乱の人生。クリントン大統領と面会したかと思えば、第1発見者の偽者があちこちに現れたりとジェットコースター状態。だから取材にはとびきり慎重になっていた。
それを実現できたのは、ぼくの相棒であるコーディネーターの白井黎さんの敏腕、そして丁寧に撮影してくれたカメラマン入江領さん、照明&音声の荻野真也さんの真摯さ、この時はADを務めてくれた(いまはEテレレギュラー『それでもヒトはモノをつくる』の総合演出!)葛谷朱美さんの溌剌とした現場進行のおかげ。そしてもう1つ大きいのは「アナザーストーリーズ」という番組の特性のおかげだった。「時効スクープ」という言い方を当時はしていたと思うが、「今だから話せる、これまで話していなかった話」を「ちゃんと、それを語れる人に伺う。又聞きではなくご本人に」というのを鉄則にしていたアナザーストーリーズ。とかく中国内外のメディアに、台本ありきで「こうしゃべれ」と言われることも多かったという楊さんは「自分のことばで自分のことを話せるなら」ということでご出演いただくことができた。
他の2人の証言者、兵馬俑発掘初代責任者の袁仲一さんと、兵馬俑を世界的な考古学雑誌に掲載して世に知らしめたジャーナリストのオードリー・トッピングさんも同じ。「今だからこそ」話せることを「自分」で。そのコンセプトに賛同してご出演いただけた。
政府が外に出すことを固く禁じていた兵馬俑の写真がなぜ世界に発表されたのか、それを物語る袁さんとトッピングさんの告白は、この番組を20本近くつくってきた中でもとびきり、とびきり可笑しくて、そしてリアルで、まさにスクープとなった証言だった。
現在、ドキュメンタリーであっても台本、台本、構成、構成と先に固めてしまうことも増えてきた。間違いを避けるためには幾許かそれも必要なこともあるかもしれない。しかし、どんなことが起きるか分からないこと。何を言い出すか分からないことば。それに備えつつ、まだ分からないことを演出側も問い、問い、答えてもらってまた問う。それは当事者、本人相手に、まっすぐ聞き出すからできるものだ。
予想だにしないものと出くわすことほど、その後の物語としてのふくらみを豊かにするものはない。だからこの番組に携わる限りは、できる限り、世に出るはずもなかったものを掘り出して行きたいと思う。
──いつか、兵馬俑のような極上のスクープができるかもしれないと信じて。
ディレクター 阿部 修英(テレビマンユニオン)
これまでの再放送
2019年
11月5日(火)21:00~
11月11日(月)23:45~
2017年
8月29日(火)21:00~
9月 4日(月)18:00~
初放送
NHK BSプレミアム
2017年6月6日(火)21:00~21:59