超人たちのパラリンピック “世界最速”の義足スプリンター 陸上100m ハインリッヒ・ポポフ 2016年7月

 足の切断手術において「膝関節を残せるか、残せないか」は患者の人生を大きく左右する。片足だけでも膝関節を失ってしまうと、日常生活の動作すらも容易ではなくなるからだ。
 ハインリッヒ・ポポフは9才のとき骨肉腫にかかり左足を切断。膝関節を失った。三度の飯より好きだったサッカーができないどころか、普通に歩くことすらままならない体に。しかも何とか義足で歩こうとする彼の姿は、学校で揶揄の対象となった。
 それでも彼の心は折れなかった。一人で「足を真っ直ぐ出して歩く練習」を繰り返す。健常者なら無意識でできる動作でも、強く意識して的確に筋肉を操らなければ即、転倒してしまう…それが「膝が無い」という障害なのだ。ハインリッヒは恐怖と戦いながら「歩き」を長年かけて体に覚えさせ、ついには健常者より速く「走る」ようにまでなり、ロンドンパラリンピックの100mでは金メダルに輝く。
 この偉業達成の理由を簡単に説明できる研究者はいないと思われるが、あえてそこに挑戦するのが本番組。「膝が無いのに、なぜ速く走れるのか?」番組ナビゲーター為末大さんと共に、最新科学を駆使して運動メカニズムと速さの秘密を解明していく。
 障害者スポーツの研究は健常者に比べ、まだ黎明期の段階。「そもそも彼のどの能力を調べるべきか?」「その能力はどんな方法で計測できるのか?」根本的なレベルから専門家と悩み、手探りで進めている。気の遠くなるような作業だが、不可能を可能にした超人だからこそ分析しがいがある。
 行き詰まったときには、ハインリッヒの言葉を思い出すようにしている。
 「膝が無いせいで、絶対にできないこともある。それについてはいくら考えても意味が無い。僕はいつも『できそうなことは何か』だけを考えている。ポジティブ思考こそ最大の武器さ」
琢磨修一
 
再放送 2016年7月10日(日)0:00~0:49 ※土曜深夜

出演

ハインリッヒ・ポポフ
為末 大

ディレクター

琢磨修一

アシスタントディレクター

尾崎千恵

プロデューサー

國分禎雄