仮説コレクターZ
昔から“魔球”というものに憧れていました。誰もが知るところでは「巨人の星」星飛雄馬が投げた大リーグボール1号2号3号ですが、私はそれよりもちばてつや「ちかいの魔球」と一峰大二「黒い秘密兵器」の突き抜けっぷりが好きでした。「ちかいの魔球」(’61~’62)の主人公二宮投手は打者の前で一時停止する魔球を投げ、それが打たれると次はボールが4つに分身する魔球を編み出し、最後は消える魔球を連投して肩を壊し引退します。この王道パターンは「巨人の星」より前にちば先生が創り出していたものなのです。しかし何と言っても強烈なインパクトがあったのは、「黒い秘密兵器」(’63~’65)に登場した6種類もの魔球でした。
全部説明すると長くなるのでゼロの秘球と呼ばれる超絶魔球の話だけ。この魔球は、投球軌道上に突然白と黒の二つのボールが現れ、打者はどっちを打てばいいのか分からなくなっちゃうという奇天烈なものです。キャッチャーのミットに収まったときは元の一つのボールに戻っています。いったいなぜこんな魔球が投げられるのか?この魔球の正体は何なのか?当時の少年読者たちはあれこれと「仮説」を立て、互いの意見を興奮して語り合いました。放課後になると草野球でそれぞれ自説を立証すべく魔球を投げ合ったのです。この謎解きの楽しかったこと、忘れられません。いろいろな推理が出尽くし、ひとりの友だちが言いました「影だよ」。ゼロの秘球は、投じられたボールが超高速でらせんを描いて進み、上にあったボールの影が下に来たボールに映って黒く見えるのだ、それしか考えられないと言うのです。全員が絶句しました。そして数か月後の少年マガジンで、ゼロの秘球の秘密が白日のもとにさらされる運命の日がやってきました。果たして秘球の正体は友だちの「仮説」の通りでした。魔球ファン全員で彼を胴上げしました。むろん今考えるとこれは大間違いで、光より速くボールが落ちない限り自分の影が自分に映ることはありえないわけで…。しかし、「仮説」を立ててみる、それを「検証」してみる、ダメだったら次の「仮説」を考えてみる、そうやってちょっとずつ核心に近づく、そういう作業をみんなで競い合った面白さは今でも鮮明に思い出します。
さて、枕ばっかり長くなりすぎましたが、「仮説コレクターZ」は昨年のトライアル版を経て、めでたく4月からレギュラー化されることになりました。世の中の片隅でまことしやかに囁かれているアノ仮説を、バカバカしいまでの必死さで真面目に検証する――その立党の精神は不変です。ただし、結果がどうなるかはやってみるまで分からない――その危なっかしさも変わりません。そして、終わった後はなんだかとにかく面白い――その読後感はますます強化されます!
(田中直人)