「その日ウチの娘は畑仕事に行ったと思っていたわ。そしたら、そのまま駆け落ちしていたの」。今回、わだ晶子さんが撮った映像には、そんなちょっと驚くような会話が、するりと、日常の一コマとして映し出されている。
パキスタン北西部、五千メートル級の山々に囲まれた秘境、カラーシャの谷。わだ晶子さんは、そこで村の一員として２５年に渡り暮らしてきた。今回の番組は、わださんが「内側からの目」でとらえた秘境の日々の記録である。カラーシャは、人の心を惹きつける不思議な魅力にあふれた土地だ。アレキサンダー大王の兵士の末裔とも囁かれるエキゾチックな顔立ち。カラフルな民族衣装で３６５日を過ごす女性たち。村人総出で開かれる年間３０以上もの華やかな祭り。そして、カップルの半数を占めるという“駆け落ち婚”の風習。…トピックだけを文字にするとセンセーショナルな土地に思えるが、わださんが捉える谷の姿は、どこまでも穏やかで愛おしい。そして村人たちもまっすぐに、親しみのこもったまなざしで、わださんのカメラに応える
　ある日、“駆け落ち婚”で結ばれたカップルがわださんの元を訪れてくる。新郎アリム、３０歳。新婦ナジバ、１９歳。アリムの４年がかりのプロポーズが実り、ナジバはこの春、身一つで、アリムの住む谷へとやってきた。カラーシャでは幼い頃に親が決めた相手と結婚するのが基本だが、「どうしてもこの人が好き！」となれば、駆け落ちすることが許されているのだ。新婦ナジバのキラキラと輝く様子は、「ひたすら親に従う・男に従う」姿とは違う、カラーシャならではの女性のあり方を物語る。
　ひとつの風景にも、ひとりの人物にも、「その向こうにある物語」を想像させる…今回のビデオ日記に、そんな映像の力を感じ取ってもらえれば嬉しい。（金井さおり）