ズームバック×オチアイ 2021年5月
ズームバック×オチアイ、ちょっとキケンな番組です。
常人の数倍の濃度で発される編集長の言葉に引っ張られ、最低限の説明で縦横無尽に今と過去を行き来する。ちょっと気を抜いたら早々に置いてきぼりを食らいます。オンエアを見た知人は「1回の放送に、一体何番組分詰め込むの?」と言いました。
大きなタイトルで構えていながら体系立っているわけではないし、ジェットコースターみたいに次の話題に移っていくし…ディレクターを任せてもらうにあたり、この番組をどう捉えて、どういう視点で作るべきなのか悩みました。
けれど、制作に関わらせてもらって思うのは、情報が氾濫する時代「ググれカス」を終えて「共にググろう (第6回大衆論参照)」を目指そうとするとき、この番組はまたとない手引きとなるのでは、ということです。初耳の横文字を検索して咀嚼し、引用元の本に触れることは観る人に限りなく託されていて、そこへの信頼あっての飛躍、スピード感なんだろうと理解しています。
シーズン8回目の今回は、アート論。
緊急事態宣言の度に「不要不急」なものとされ文化施設に休業要請が出される現状は、作り手としても受け手としても、切実な問題。「アートは私たちにとってどんな存在であり続けてきたのか?」そんな問いを持って、開催3日で休館となってしまった森美術館の企画展を訪れました。
編集長落合さんが、館長の片岡真実さんをゲストに迎え特別対談。「社会が混沌としたときに、アートが活性化する」「有事に対抗できるエネルギーはクリエイティブ」・・先が見えないまま我慢我慢が強いられているなかで、アートに正面から対峙してきた2人の放つ言葉の力強さに、背中を押されることの連続でした。
最後に、ズームバック×オチアイを制作していると「総力戦」という言葉をよく耳にします。
短期間で高濃度の番組をつくるとき、肩書きとか身の丈とかを考えている暇はありません。時に大先輩にリサーチをお願いし、構成がひっくり返ればAD隊に新しい映像を探してNHKを往復してもらう・・そうしてなんとか完走し、自分の回を終えたらアシストに徹する、そんな循環が生まれつつあります。
今回も、制作者全員の総力を結集してなんとかまとめることができました。
8回目の「アート論」どうぞご覧ください。
(中川 奈津子)
シリーズ「大回復」
第8回「アート論」 5月28日(金)22:00~22:29(NHKプラスで1週間見逃し配信)
ディレクター 中川 奈津子
取材 山本 宏明